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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

『天使の手鏡』・第15章~第17章

『天使の手鏡』・第15章『大天使』


穏やかで幸せな日々が続いていたある日のこと、診察が終わり片付けをしているとトマスが見知らぬ2人の天使を連れて診療所を訪れました。

「トマス、こんな時間にこんな遠くまでどうしたのですか?」

〔こちらに用事があり、近くまで来たので〕

「そうですか、まぁ座ってください。お連れの方もどうぞ。今、お茶を入れますね」

私はレミィから貰ったやすらぎの芽のお茶を入れました。

[これは本当に美味しい・・・トマスの言ったとおりですね]

と、連れの1人が言いました。

〔言ったとおりでしょ?これを飲むだけに、ここまで来たくなるぐらいですから、先生、紹介が遅れましたが、こちらは私と同じ主天使のルイスとその下で働くモーガンです〕

[どうぞよろしくお願いします。先生のことはいろんな所でお噂を聞いています。今日は会えてとても光栄です]

「いえ、私はそんな大それた者ではありません。それより主天使のルイス様と言えば、トマスと並ぶ権威を持つお方ではないですか」

〔先生、私と比べては困ります。ルイスは事実上、主天使のまとめ役ですよ〕

[いや、どちらが上などは関係ありません、そんなものはただの形、現に私は誰よりもトマスを尊敬しています。そのトマスが尊敬できるという先生に私も会ってみたいと申し出したのです。それにもう1つ、先日、先生の教え子さんにお世話になりました。本当にいい青年達でした。そこでもやはり先生の事を聞きました。みんな愛敬していました]

「私はそんな立派な者ではありません・・・」

〔先生を慕う者はなにも先生の教え子だけではありません。何処へ行っても先生の噂を聞き、慕う者がいます〕

「そう思われているのなら幸せです。それより何のご用件でこちらまで?権威のある2人が揃ってこんな所まで来るのにはそれなりの用件があったのでしょう?悪い事ではないかと、心配なのですが」

[ただの調査です。心配なさるような事は何もありません]

「それならいいのですが・・・何はともあれお疲れになったでしょう、少し私に翼を診させてはもらえませんか?翼の疲れを取りましょう」

[それはありがたい、是非お願いします]

私は3人の後ろにまわり、順に翼をゆっくりとさすりました。

「どうですか?」

[疲れて重く感じていた翼がまるでそれ自体が無くなったように軽くなりました]

「ただ、翼の疲れを取っただけです。さすがにみんな良い翼を持っていらっしゃいますね」

[素晴らしい力ですね、これもまたお噂通りで]

「私だけが特別ではありません、みな様も同じように特別な力を持っていらっしゃる」

〔先生の力は飛びぬけているのですよ〕

「これは神様から授かった使命のための力・・・私が凄いということではありません」

[なるほど、今の言葉を今の若い者みんなに聞かせたいですね。今日は本当に会えて良かったです。お互い明日に差し支えぬよう、今日のところはこれで帰ります。また会う事になるでしょうが、その時もまたよろしくお願いします]

「いえ、私こそ」

そうして、突然の来客は帰っていきました。しかし、調査とは?・・・本当に何の用があったのだろうという疑問が残りました。


そして、それから何日か経ったある日の朝でした。

外の騒がしい物音に起こされ、私は何事かと外に出てみると、沢山の天使達が診療所の前に集まっていました。その先頭にはルイス様とトマスが居ました。

そして、そのすぐ後ろにはレミィ、ダニエル、アンディ、ヴィクターとシャルルまで・・・他も見慣れた天使たちばかりでした。

「トマス・・・これは一体、何事なのですか?」

〔では、私が代表として言い渡しましょう。私たち主天使とその上におられる大天使様との評議により、先生ことドリエルを大天使に賞します・・・おめでとうございます〕

「・・・何を言ってるのです?」

突然で理解が出来ませんでした。

すると、今度はそこに居た皆が一斉に拍手をし、口々に祝いの言葉を私に言いました。

それでも私には何が起こったのか分かりませんでした。

「トマス、一体何と?・・・」

〔先生は今日から大天使ドリエルです〕

「・・・」

〔みんなの意思です〕

「そんな・・・私のような者が・・・お受けできません」

〔何を言っているのですか?見てください、みんなが納得し、こうして祝いに来ているのですよ〕

「しかし・・・」

すると、ルイス様が言いました。

[大天使様たちが最初に決定されたのです]

「・・・」

[みんなに一言、言ってやってください]

〔さぁ、先生!〕

私はやっとどういう事か分かりました。

「みんなありがとう・・・しかし、私は・・・私はただの翼の医者です。たとえこのような名誉を貰おうとも、私が医者という事に変わりはありません・・・しかし、こうして私の為に集まってくれていることが嬉しいのも事実です。みんながここに居ることが嬉しいのです。私たちは仲間です、兄弟です、家族です。私はいつもそう思っています・・・」

私は自分で何を言ったのかも分かりませんでしたが、皆、歓声を上げていました。

そして、

〔さぁ、みんな祝おう!〕

と、トマスが大きな声で言うと、歌隊天使が現れて音楽を奏で、いっそう皆も歓声を上げました。

「本当にどうなっているんだ・・・」

〔おめでとうございます。突然で驚かれたでしょう?これは大天使様に言われ、前より検討していた事なのです。この前、ここに訪れたのもこの事の為だったのです〕

「しかし・・・大天使といえば相当の功績を残した者に与えられし称号なはず、私などが授かって良いものか・・・」

〔これまでみんなを支え、助けて来たじゃありませんか、それで十分だと思います〕

すると、ルイス様も、

[皆も十分ふさわしいと思っています。使命が変わり、動揺と不安の中で先生のような光となる身近で頼れる存在が必要だということです。先生は何も変わる必要は無いのですよ、にいつもどおりでいてください]

「・・・はい、ありがとうございます」

そして、ダニエルたちが私の所に駆け寄って来ました。

〔おめでとうございます!とても嬉しいです!・・・先生を誇りに思います・・・〕

アンディが目に涙を溜めながら言いました。

〈先生、本当におめでとうございます。先生のなさってきたことが、私の信じたものが正しかったと証明された様で嬉しく思います・・・〉

今にも泣きだしそうにレミィも言いました。

そして、ダニエルが優しくレミィの肩に手を置き、言いました。

[そうだな・・・レミィが一番、先生の考えを理解していたからね・・・先生、私たちは必ず先生の思いを受け継いでいきます。これからもご指導をしてください。そして、見守っていてください]

「もう受け継いでくれているじゃないか、みんな誇らしい教え子たちだ、これからも一緒に頑張ろう」

[はい!]〈はい!〉〔はい!〕

いつものように声を合わせて、そして誓うように答えました。

そして、次に私の前にやってきたのはヴィクターとシャルルの兄弟でした。

[先生、この度はおめでとうございます。私も弟も大変喜んでいます。ところで先生、この前に話しをした地上にある島の話しですが、今度の休みにどうですか?お祝いとして私たちに案内させてください]

少し前、ヴィクターとシャルルが話しをしてくれた地上の美しい海に浮かぶ美しい島の話の事でした。

「あの話の島に?」

[はい、ぜひ]

すると、シャルルも

〔日頃の感謝と思ってください〕

と、頭を下げ、言ってくれました。

「それは楽しみだ、よろしく頼む」

[はい!]〔はい!〕

そして、それからも次々と私の所にみんなが祝いの言葉を言いに来てくれました。

私の愛するみんなが祝ってくれたのです・・・

みんなが楽しそうに笑っています。

私にはこんなにも多く慕ってくれる天使たちが居るのかと、改めて自分の幸せさを感じ、幸せを噛み締めながら祝いを受けました。


                      つづく。



『天使の手鏡』・第16章『地上へ・・・』


私が大天使の名を受けた日から数日経った休診日・・・

今日はヴィクターたちと地上に行く約束の日でした。

私は楽しみにしていたせいか、いつもより早く目覚めていました。

地上へはサラを送り出した以来でした。しかし、あの時はゆっくり見る余裕も無かったので、それを考えると100年以上も地上に降り立っていないことになります。

話だけは沢山聞いていたのですが・・・

そうして、考えていると楽しみな気持ちとは逆に不安な気持ちが湧き上がっていきました。

[先生おはようございます。準備はお出来ですか?]

「おはようヴィクター、それにシャルルも今日はよろしく頼む」

[はい]

「その前に二人とも1つ約束をしてくれ、飛ぶ私の姿を見ても驚かず、そして何も聞かず、誰にも他言せずにいてくれないか」

私はサラの翼を隠しきれないと思いました。それに、2枚の翼を重ねて飛ぶことは負担が大きいのです

[・・・はい、どういう事か分かりませんが、言われた通りに・・・それでは行きましょう、私の後に付いてきてください]

「よし、行ってくれ」

ヴィクターは飛び立ちました。その後に私は隠すことなく4枚の翼を広げ、飛び立ちました。

すると、やはり後ろに居たシャルルが驚きの声を上げました。

〔先生・・・先生は一体・・・〕

すぐにヴィクターも振り向き、それに驚きました。しかし、2人とも約束通り何も聞かずに飛んでくれました。

そして、快適に降りていたその途中、ヴィクターが突然止まりました。

[まずい、飛行機が近づいているようです。危険です、少し止まって避難していましょう]

「ヴィクター、飛行機とは?急にどうしたというんだ?この何も無い空で何が危険と言うんだい?」

[感じませんか?この空気のざわめきを・・・]

私は周りに集中しました。すると、確かに空気がざわめいているのが分かりました。そのざわめきは次第に大きくなり、大きな振動へと変わっていったのです。

「いったい何が起こっているんだ?この空気の振動と音は?凄い勢いでこちらに向かってきている・・・」

〔これが飛行機という物の仕業です〕

「飛行機・・・そういえば話には聞いたことはある・・・人が作った空を飛ぶための乗り物・・・これがその飛行機と言う物の仕業なのか?」

[そうです。すぐに通り過ぎますよ、下を見ていてください]

「・・・」

言われたとおり私は近づく異変を感じながら下を見下ろしました。

すると、空を切り裂くような音と共にそれは姿を現しました・・・
「こ、これが・・・」

私は唖然としました。それは一見とてつもなく巨大な鳥のように見えましたが・・・それはあっという間に爆音と共に消え去って行きました。

「ヴィクター・・・あれが飛行機なのか?あれに人が乗って移動しているというのか?」

[はい、そのとおりです。沢山の人があれに乗って移動しているのです]

「あれに沢山の人が?・・・」

[はい。しかし、驚くのはあれだけではありません・・・他にも地上には驚く物が溢れかえっています。先生もお聞きになったでしょう?人は今、月や宇宙にも行くことが出来ると。人の進化にはとても付いていけません]

〔脅威です・・・〕

「進化?進化というものは生きる為に自然に適応するものではないのか?人の進化とは一体、何の為に・・・」

[私にも理解できません。下を見てください、これが今の地上、いや、この星の姿です・・・]

雲を抜けると、想像も超えた地上の姿が現れました。

「・・・」

声も出ませんでした。

[よく、ご覧ください、もっと近くまで行きますか?]

「・・・」

〔兄さん、ここからでいいじゃないか、これ以上は・・・〕

「いいんだシャルル、連れて行ってくれ」

〔はい〕

そうして私たちは地上へと舞い降りました。

「これが人の世界・・・」

私は見るもの全てをヴィクターとシャルルに質問し、答えてもらいました。

「見知らぬ別の世界に居る気がするよ・・・」

私たちが手を差し伸べられるものではないと感じずにはいられませんでした・・・

そして、こんな世界の中にサラは居るのかと心配しました。

[先生、ここで見る物はまだほんの一部に過ぎません・・・これ以上は辛くなると思いますが、まだ見ますか?]

「・・・頼む」

[では、行きましょう]

すぐ、見なければ良かったと後悔しました・・・

「そんな・・・何をやっているのだ・・・」

[これが戦争というものです・・・戦争をする理由は分かりませんが、繰り返し起きています]

「これは虐殺、殺戮だ・・・あまりにも酷過ぎる・・・命の尊さは何処に?愛は何処に?・・・これはもはやただの破壊、人だけの命の問題では無いではないか・・・」

〔本当に悲しいことです・・・本当に・・・〕

「もういい・・・島に連れて行っておくれ・・・」

もう見たくありませんでした・・・

人は・・・どうしたのだろう・・・なぜ、傷つけ、傷つけ合う必要が・・・

私は人に疑問を持ちました。

[行きましょう・・・]

壊れ、荒れた土地を離れ、私たちは島を目指しました。

しかし、その途中も目に付く、目をふさぎたくなる光景・・・

「急いでいる・・・人は未来を急いでいるのか?・・・もし、私が人と同じ短い命だったとしたらどうだろう?急いで自分の事だけを考えてしまうのだろうか・・・何百年生きてもまだまだ悟りきれないものが私には沢山ある」

〔私たちが たとえ短い命であっても人のようにはなりません!あんな風には〕

「そうだな、つまらない事を考えてしまった」

[いえ、私たちも人と接して苦しんできた事ですから・・・]

「そうか、君たちは長年こんな地上で使命をはたしてきたのだな・・・」

〔そうなんです・・・人が自ら気付いてくれないと、この世界はもう私たちには救えないのです〕

「・・・だから私たちは今、気付かせようと頑張っているのだな、やはり与えられた使命を信じてまっとうするしかない」

[はい]〔はい〕

私たちは強く誓い合いました。

そうして話しながら飛び続けていると、いつの間にか下には青い海が広がっていました。

真っ青な海は白波をキララと輝かせ、何処までも続いていました。

[ここは何も無いですから水面近く飛びましょう]

私たちは水面にすれるほど低く飛びました。

深く澄んだ海の中は美しく色を変えながら高ぶっていた私の心を静めてくれました。

時より魚たちが私たちを追いかけるように泳ぐ姿も見えて私は海の中を進んでいるような錯覚を起こすほど見とれました。

そして、しばらく進んでいると、私たちの周りには沢山の鳥たちが一緒に飛んでいました。

仲間とでも思っているのでしょうか?

まるで寄り添うように、遊んでいるかのように私たちの周りを飛んでいました。

そして、海が急に眩しく光り始めました。

「眩しい・・・何だ?」

〔眩しいのは珊瑚礁と浅瀬の白い砂のせいです。少し上がって飛びましょう、そのほうが綺麗に見えます〕

シャルルの言うとおり少し上がってみると、色とりどりの珊瑚と白い砂が宝石のように輝き光っていました。

そして、目の前には緑でいっぱいの孤島が・・・


つづく。


『天使の手鏡』・第17章『楽園』

 
孤島に降り立った私はその美しさに圧倒されました。
これ以上の美しい光景を見たことが無いと本当にそう思いました。

知る限りの言葉を言い尽くしても表せないほどでした。

そして、ここには大小様々な沢山の鳥たちが真っ白な砂浜でくつろいでいました。

「ここは、鳥たちの楽園なのだな・・・」

[そうです、ここは数少ない鳥たちの安住の地、鳥たちは自ずと集まるのでしょう]

「しかし、凄い数だな・・・」

[はい・・・しかし、ここもいつまでこのままの姿でいられるか分かりません・・・]

「人か・・・幾らなんでもここまでは汚れないだろう」

〔この星で人が手をかけていない場所はほとんどありません〕

[先生、あれをごらんください]

ヴィクターが指す方を見ると、小さなゴミが散らかっているのが見えました。

「・・・ここにも人が?」

[そうではありません、流れ着いたのでしょう]

「街から?」

[はい、海で繋がっているのですから不思議ではありません]

「・・・あれぐらいのゴミなら私たちが片付けよう」

ゴミを拾おうとすると、それを見ていたシャルルが慌てて止めました。

〔先生、気持ちは分かりますが止めてください。そのゴミを天空に持って帰るおつもりですか?そのゴミは私たちが処分できないゴミばかりです。それに、すぐにまた流れてきます・・・〕

「しかし・・・」

[そうですシャルルの言うとおりです。もともとこの世に存在しない物、人が人の為だけに作り出した物です。燃やせば有害な物に変わり、腐りもしません]

「自分たちの為だけにそんな有害な物まで作り出したのか・・・それでこのゴミはどうなる?」

[どうしようもありません・・・それが増え続けています。一部は再利用しているらしいですが、多くは埋められたり、こうして捨てられたり・・・]

「・・・それで、ここの鳥たちにこのゴミによる影響はないのか?」

私が問うと、シャルルが力を込めて語りだしました。

〔あります。これを見てください、一見ただのゴミの固まりのように見えますが、よく見ると小さな鳥の骨が混ざっています。これはここに居る鳥たちのヒナの骨なのです〕

「なぜ?・・・」

[・・・どこかで人が、何も考えず小さなゴミをポイと捨てました、そのゴミは遥々海を渡り、この島の近くまで流れてきました、プカプカと海を漂う小さなゴミ、それを鳥たちが習性と勘違いでエサだと思い込み、飲み込んでしまいます。そして、そのまま口に含んだゴミを我が子、つまりヒナにあげてしまうのです。ヒナは親鳥のように一度飲み込んでしまった物を出すことが出来ません、だから体にどんどん溜めてしまうのです、そして、その結果がこれです・・・]

「こんな小さなゴミで命が・・・」

[はい、毒性がある物だったのでしょう・・・]

「どうなっているのだ・・・あまりに命が簡単に失われ過ぎてはいないか・・・人は命や自然をどう考えているのだ・・・」

私らしくなく怒りを感じていました。すると、ヴィクターが亡き骸を見つめ、小さくつぶやきました。

[きっと知らないのです・・・知っている者が居るとしても、ほんの一部の人しか考えていないのでしょう]

「そんな・・・この悲惨を知らないというのか」

[おしらく]

「・・・」

その時でした、少し離れた場所からシャルルが大きな声で呼びました。

〔先生、来てください!〕

「シャルル、どうしのだ?」

駆けつけるとそこには一羽の鳥が片方の翼を引きずり、バタバタともがいていました。私は慌てて、その鳥を抱き上げた。

[シャルル、今話していたゴミのせいか?]

〔いや、傷ついているだけだと思う〕

「ひどい怪我だ、翼がちぎれかけている・・・私の力がこの鳥に通じるだろうか?・・・考えている余地は無い、やってみよう」

そう言って私はいつも患者にやっているように鳥の翼に手をあて、力を込めました。

〔先生の手が光っている・・・〕

[凄い・・・怪我が見る見る治っていく・・・]

2人とも驚いていましたが、私はそれにかまわず治療を続けました・・・

「もう、大丈夫だろう、完全に治ったはずだが・・・元気よく飛んでくれ・・・」

私は願いながら鳥から手を離しました。すると鳥は私の手の上からゆっくりと翼を広げ、確かめるように数回羽ばたかせ、飛び立ちました。

〔やったぁー〕

シャルルが喜びの声を上げ、ヴィクターも、

[良かった、あんなにも嬉しそうに大空を舞っている・・・]

と、喜んでいました。私はその鳥が私たちの上空をグルグルと回っているのを見ながらある決心をしました。

「私はここの鳥たちを守りたい。休診日にはここに来て傷ついた鳥たちを診よう、いいかい?ヴィクター」

[先生が決めたことなら私は何も言うことはありません。でも、無理をなさらずになさってください]

「ありがとう」

そうして、私たちは島をぐるりと回りました。

これほど美しい小さな孤島に傷ついた鳥たちが沢山いるのには驚きました。

中でも怪我ではなく、ゴミを食べてしまっているヒナを助けるのは大変でした。

親鳥が怒る中、無理やり逆さまにしてゴミを吐かさなくてはならなかったからです。

〔やはり先生も鳥が好きなのですね。こんなにも愛しいのは私たちと同じ翼を持っているからでしょうか?〕

「いや、翼があるだけではない、私たちと鳥たちは似ていると思わないか?」

〔似ている?〕

「この豊かな緑が愛ならば、愛を運ぶということで私たちは似ているだろう・・・こんな話を知っているかい?地殻変動で突如、何も無い海の真ん中に現れた島があった。もちろんその島には何も無い。しかし、10日もすると島はもう草花が生えている。
なぜだと思う?それは鳥たちが運んだのだ・・・
突然に出来たその島は空を旅する鳥たちの格好の休息場になる。鳥たちは体に付いていた草花の種を落としていく、それに排泄物にも種は混ざっている。
そう、そうして島は緑の楽園となっていくのだ。
どうだ?今の君たちと似ているだろう?」

[確かに・・・私たちも風になり、愛を運びます。その愛が大きく広がっていくようにと]

「そういうことだ、さぁこの小さな仲間たちを助けよう」

そうして島を一周し終えた頃にはもう日が暮れかかっていました。

私たちは真紅に染まっていく海を眺めました。

[綺麗ですね・・・]

「そうだな、私たちが生きる天空は色が少ないからな・・・ここは綺麗だ、私たちに守れるだろうか・・・いや、守りたい・・・」

[人からですか?]

「今はそうなってしまうのか・・・本来、人を守るのが使命だったというのに・・・」

〔きっと守れます!〕

[必ず守るだろ?シャルル]

〔そうだね〕

「私も君たちを信じて頑張ってみよう」

そうして夕日が沈み、小さな丸い月が姿を現した頃、私たちは再び天空へと飛び立ちました・・・

私はヴィクターとシャルルに別れを告げて診療所に戻り、真っ先に今日体験したことをサラに語りかけようと手鏡に向かいました。

すると・・・サラはまた泣いていました・・・


つづく。


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